幻の海苔「江戸のたよりあさくさのり復活物語」|飯塚海苔店

歌川広重「名所江戸百景」当時の海苔養殖場の風景

海に近い漁村として栄えた現在の東京・浅草地区。江戸時代の浅草川河口付近は、良質な海苔の生育に適した場所でした。

当時盛んだった浅草紙の製法「紙漉き」を応用した海苔が「浅草海苔」として売り出されたのが、浅草海苔の始まりと言われています。

江戸名物・江戸みやげ

この「浅草海苔」は、持ち運びにも便利な江戸の名物、江戸みやげとして全国にその名が知られるようになりました。

橘岷江「彩画職人部類」

斎藤長秋・長谷川雪旦「江戸名所図会」海苔の加工の様子が描かれている

養殖の開始・専門業者の登場・漉き加工

江戸初期に始まった養殖による収量の増加、漉き加工による個性の確立、専門業者の登場により、浅草海苔は全国に拡がりました。

【江戸時代初期】あぶって肴に、汁物に/バリエーションは少なかった…

【江戸時代後期】全国から様々な食べ方が登場！/巻いて、混ぜて、はさんで、散らして

おなじみ海苔巻き寿司も江戸時代後期に登場しています。

ところで…

当時「浅草海苔」として売り出されていた海苔は、現在の和名で「アサクサノリ」と呼ばれる海苔の品種のひとつです。

このため、1960年以降アサクサノリの養殖は途絶え、現在はに指定されるほど希少なものになっています

金田漁業協同組合の場所を示す千葉県地図

そんな種も海の状況もすっかり変わってしまった中、木更津市の金田漁協組合員に、ある年配の方から

という声が寄せられます。その言葉が気になり、他のお年寄りに訊いてみると、口を揃えて

こうして「あさくさのり復活物語」は始まりました。

既に絶滅寸前となっていたアサクサノリは、種の入手すら難しい状況でした。全国を飛び回りどうにか種を入手しても、今度は種付けに失敗…種付けが成功したかと思えば育苗に失敗…そんな日々が続きました。

初めの挑戦から3年目となる2004年に一度は復活したものの、翌年にはまた失敗…資金集めからの再スタートを余儀なくされます。

再び途絶えてしまうかに思われたアサクサノリの生産…しかし金田漁協は諦めていませんでした。今年も金田漁協の若手六人衆が挑み、試行錯誤の結果…

ごくわずかながら、昔の海苔の味を復活させることに成功。皆様の元へお届け出来ることとなりました。現在主流の海苔とは、味も香りも別格です。ぜひご自身で、ご家族で、「幻の海苔」のおいしさを楽しんでいただけたら幸いです。

DNA鑑定結果画像

アサクサノリの養殖地は、同じ海域に繁殖力の強いスサビノリの養殖場があり、混入を完全に防ぐのは事実上不可能です。100%アサクサノリではない点を、何卒ご理解、ご了承くださいませ。なお、今シーズンの摘採では、75%がアサクサノリであるというDNA鑑定結果を得ることができました。

アサクサノリのおいしさの理由を、成分分析から探ってみました。右は、一般的な焼き海苔100gあたりに含まれる量を100として、アサクサノリに含まれる量と比較したものです。エネルギーの総量はほぼ違いが無いのに対し、炭水化物がやや少なく、その分たんぱく質や脂質が多い事がわかります。

一般的な焼き海苔とアサクサノリの成分量の違い(エネルギー・炭水化物・たんぱく質・脂質)を表す棒グラフ

浅草海苔を手に入れたら、まずはシンプルな料理でアサクサノリ本来の香りの良さを楽しんでみてください。水・お湯に溶けるととろとろになるのも浅草海苔の特徴です。飯塚海苔店では、シンプルな蕎麦に海苔を溶かし、薬味を添えた「花巻そば」をおすすめしています。

天候や海の状況に生産量を大きく左右されてしまうアサクサノリ。また来年もお届けできるかわかりません。事実、一度は成功したにもかかわらず、その翌年にはまた生産が途絶えています。

とまで言われたアサクサノリのおいしさを、ぜひこの機会に味わってみてください。